パリ・オペラ座のヌレエフ版「眠れる森の美女」をDVDで見ました。
オーロラ姫はオレリー・デュポン、デジレ王子はマニュエル・ルグリ。ルグリはエトワールを23年務めて引退し、2010年シーズンからはウイーン国立歌劇場バレエ団の芸術監督となっています。
眠れる森の美女は、バレエスタジオなどの発表会で3幕を見かけることは多くありますが、上演時間が長く、通しでの公演となるとやはりプロに限られます。
多くのバレエ作品の中でも、悪と善との対立軸が際立っていますが、悪のカラボスもなぜか胸を突くような邪悪さはなく、全体的に華やかさと美しさの満ちた作品という印象があります。ルイ14世時代への賛歌という作品の性質上、そういうイメージがあるのかもしれません。
起伏に欠けるような気もしていましたが、主役だけでなく、郡舞のひとつひとつも見惚れるほどに美しく、絢爛豪華な舞台に魅せられました。
熊川哲也演出・振付のKバレエカンパニー「シンデレラ」が来年2月、初演されます。
来年、Bunkamuraオーチャードホールの芸術監督に就任し、最初の企画公演となるもの。
プロコフィエフの音楽「シンデレラ」は、よくフィギュアスケートで流れていたので、聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。
プロコフィエフの「シンデレラ」は舞踊的であるように、意識して書かれたものだと読んだことがあります。
着飾ったシンデレラが送りだされる1幕のワルツと2幕の終わりでは、同じ曲でもまるで違ったように聞こえ、シーンによって和声や伴奏が違うことが聞きどころです。
だれもが知っているぺローの童話を熊川哲也がどうオリジナリティを含み、どんな演出にするのか、来年の楽しみとなる公演です。
昨夜のNHK-FM「バレエ音楽スタジオ」はこの「シンデレラ」を中心としたプログラムだったのですが、うっかり聞き逃し、軽く失意を覚えつつー。
パリ・オペラ座バレエ「ドガの踊り子」のDVDの評論を読んでいました。
パトリス・バール振付、エトワール役のドロテ・ジルベール、バレエ教師役でマチュー・ガニオ、常連客のジョゼ・マルティネズ・・・と豪華なキャストです。
ドガといえば、踊り子を主題とした絵が数多くあります。
代表作は「踊りの花形」。舞台上で軽やかに舞う躍動的な踊り子の絵です。
背後には夜会服を着たパトロン。
当時のバレエの世界の厳しい現実をのぞかせるような構図で、ドガの得意な人工光の描写が光ります。
「ダンス教室」「三人の踊り子」などバレエをモチーフにした作品が多いのは、自身、バレエが好きでオペラ座の定期会員となっていたからということです。
そのドガの彫刻「14歳の小さな踊り子」をテーマとしているのが、この作品「ドガの踊り子」。
ドガと同じように、当時の踊り子の置かれたシビアな状況を描いています。
当時の風俗の描写が面白い、ユニークな作品という気がします。
ワールドツアー中の韓国バレエ団「ユニバーサルバレエ」が来年2月、日本公演を行うことが、少し前に発表されました。
ユニバーサルバレエは今年は9月に日本上陸。東京公演は1日のみでした。
9月の演目は「ジゼル」。正統派の演技&演出だったと好評でした。
各メディアで報じされていたジゼル役のファン・ヘミンのポアントの写真がとにかく美しい。
アルブレヒトを演じたロシア生まれのコンスタンチン・ノヴォセロフも高い評価を得ていました。
クラシック音楽の演奏家がアジア系であるというだけで、少しばかりマイナスにみられるのと同じように、日本ではとりわけ、あまり知られていないユニバーサ ルバレエが演じる古典ってどうなの、という前評判もあったようですが、それを払拭するに十分な舞台だったようです。レパートリーは幅広いそうですから、今後、もっと日本でも見るチャンスが増えればと願います。
前述のパリ・オペラ座ヌレエフ版「白鳥の湖」についてです。
バレエにかかわらず、あまり悲劇は好きではありません。これが日本人気質なのか、できればハッピーエンドで終わってほしい。
しかし、この「白鳥の湖」はそんな感情を超えています。救いようのないヌレエフ版ですが、これでいい、これがいい、と思います。
ひいき目ですが、これはやはりカール・パケットのロットバルトのお陰かも。
悪魔が登場したところで、待ってました!という気分になるのは、この人の魅力だと思います。
フクロウの姿をした悪魔がオデットを連れ去り、絶望に暮れる王子。
悲劇であるのに、ただひたすら美しさと感動ばかりあるのはなぜでしょうか。
そしてもうひとつ。ジョゼ・マルティネズがあまりにもひ弱なジーフクリートをうまく演じているからかもしれませんが、時々、王子もか細い白鳥に見えてしまうのは、私だけでしょうか。
妖艶でした。
パリ・オペラ座によるヌレエフ版「白鳥の湖」のカール・パケットです。
パケットは王子の家庭教師、実は悪魔ロットバルト。
第一幕のジーフクリート王子とのパ・ド・ドゥは秀逸でした。
これは倒錯した愛情なのでしょうか。
金髪に端正な顔立ちは、正統派王子のようでもありますが、やはりこういう癖のある役で力を発揮する人という気がします。
一方で家庭教師の踊りをなぞるジョゼ・マルティネズのジーフクリートは、ちょっと弱弱しく、被支配的な雰囲気を醸し出していました。
敵役も王子役もこなしますが、決して身体能力は高くなく、努力によって克服しているという評のパケット。
第一幕のインパクトが強すぎ、二幕の白鳥の美しさが淡泊に感じられるほどです。
白鳥の湖はやはり、男性の物語という気がしました。
「パゴタの王子」のビントレーバージョンは、「菊の王国」の物語。
主人公のさくら姫が、サラマンダー(おおとかげ)の姿に変えられた兄とともに、継母に事実上乗っ取られた自国を取り戻そうと旅をする、というストーリーです。
新国立劇場のバレエ団のブログには、登場する妖怪の衣装合わせの様子の写真がUPされていました。和服に妖怪に・・一歩間違うとキワモノになりかねない素材ですが、きっとビントレーの手で、洗練された舞台に仕上がってくるのだろう、と思います。
ほとんどのバレエ作品では、男女の恋愛がひとつの軸となりますが、ビントレーはあえてロマンスの要素を外し、家族愛をモチーフにしています。
「没後150年歌川国芳展」に寄せたインタビューで、ビントレーはロイヤルファミリーに代表されるような「家族の絆」こそ日本の強みであるーという意味のことを語っていました。
昨日発売のダンスマガジンの表紙は、さくら姫役の小野絢子でした。今回の配役の中で、さくら姫は小野絢子がぴったり合う気がします。清楚なさくら姫はまさに古きよき日本的なイメージです。
友人の4歳のお嬢さんが、バレエを習い始めました。
一度見学に連れていくと、かわいいレオタードに魅せられ、その場で入会することになったそうです。
毎週土曜日に行われるレッスンを楽しみにし、もう火曜日ごろには行く準備をしているというMちゃん。いそいそ、ワクワクしている姿を思い浮かべると心がなごみます。
友人は、小学校に入る前に、習い事で規律を身につけることができることを歓迎していました。保育園の先生とも、両親とも違う、スポーツの厳しさの中ではぐくまれる規律です。
「バレエの先生に言うよ」という決めぜりふで、お嬢さんが言うことを聞くようになった、という話も興味深く聞きました。
今の時代に、威厳のある「先生」は、存在自体が貴重です。
ちっちゃなバレリーナの今後を、陰ながら見守りたいと思っています。
日本文化と○○文化のコラボというと軽すぎることがよくありますが、そう思いながら注目しているのが、新国立劇場で今月末から行われる「パゴダの王子」です。
今ひとつ物語性にピンとこないものがあり、実際、クランコ、マクミランのいずれも大成功とはいえなかったこの作品が、ビントレーの手によって生まれ変わります。
そのキーワードとなるのが、歌川国芳。
今年は国芳の没後150年だそうで、記念展に寄せたビントレーのインタビューを読みました。
ビントレーの「クレージーでグロテスク」という言葉に、なるほど、国芳の絵を海外の人が見るとこういう感想になるのだなと妙に感心しました。
「物の怪」の世界は、なぜか違和感なく受け入れられますが、すべての生き物を擬人化して考えるのが、やはり日本文化というものかもしれません。
国芳は、天保の改革の質素倹約の大号令の下、政治に対する皮肉をこめて絵を描いたといいます。
その絵がどんな形で、バレエの世界と結びつくのかーこの作品についてはまた次回、続きを書きます。