今月の初めにボリショイ所属の唯一の日本人で、第一ソリストの岩田守弘さんが、今シーズン限りで退団するというニュースが流れました。
新聞各紙によると、今後は振付師として日露両国で活動するといいます。
きょうご本人のオフィシャルブログには、来年の公演の見込みについてUPされていました。
このご本人のブログは以前から時々注目しています。
文章は長短いろいろですが、岩田さんの感性を非常に感じる内容が多く、面白いのです。
美術関係はもちろんのこと、武道などいろいろなアプローチをされている日常が垣間見えます。
10年ほど前から岩田さんは日本文化をモチーフとした作品の振付も行っています。
キャラクターダンスのスペシャリストが、退団後、どのような作品を生み出していくのか、注目しています。
ライモンダのDVDの解説本の中に、バレエ衣装を製作する大井昌子さんのインタビューが載っていました。
大井さんは自らも橘バレエ学校でソリストとして活躍していたバレリーナで、衣装製作に携わって40年。2002年には「ニッセイバックステージ賞」も受賞しています。
以前に、職業図鑑的な番組で見たときには、足踏みミシンを使って衣装を手作業で作りあげていく様子が紹介されていました。
バレエ衣装はいったん仕上げたあとも、舞台上での見え方やバレリーナの体重の増減によって修正の繰り返しといいます。
ミリ単位に及ぶ誤差が、舞台上では全く印象を変えるといい、これこそプロの精密な仕事だと驚きました。
華やかで繊細なバレエは、その実、心身のハードな鍛練、すなわち「強きもの」です。その舞台裏もやはり「強きもの」によって支えられているという気がしました。
「ライモンダ」の続きです。
「ライモンダ」の代名詞のように言われるのが、ハンガリー風の独特のポーズ。後ろ頭にあてた右手の手首、ポワントですっと立った両足が特徴です。ジャケットなどでもよく使われる有名なポーズです。個人的にも大好きです。何ともいえない品格があります。
エキソシズムはこの作品のキーワードの一つですが、第二幕ではサラセンという遠い国を表現していたほのかな民族性が、第三幕で全開となります。
ハンガリーの踊り「チャルダッシュ」に、ポーランドの「マズルカ」。
いずれの民族的な衣装も楽しめました。
結婚式にふさわしく賑やかに盛り上がり、アポテオーズで締めくくり。
決してストーリーに起伏はありませんが、民族的でありながらも洗練されていることが心地よさを生んでいるように思います。
新国立劇場バレエ団のDVD「バレエ名作物語 ライモンダ」を見ました。
「ライモンダ」は中世の物語。伯爵夫人の姪のライモンダが婚約者で騎士のジャンが戦地から戻るのを待っています。
婚約者の帰還を待っているところに現れたのは、サラセンの首領アブデラーマン。ライモンダに求婚し、略奪しようとしたその時にジャンが戻り・・。
ストーリーはシンプルで、起伏もあまりありません。物語を中心に見ようとすると、ちょっと退屈に感じる人がいるかもしれないと思うほどです。ですが、その分、ストーリーに頭を働かすことなく、美しさに没入できる作品のように思います。
第一幕のヴェールのバリエーション、夢の場のパ・ド・ドゥ、第三幕の民族舞踊、結婚式のバリエーション・・など見せ場は枚挙にいとまがありません。
主演のザハロワの美しさは息をのむほど。長野由紀さんが評論しているように、本当に彼女の個性によく合った作品でもあると感じました。
バレエが好きな友人がこの本を勧めてくれました。
「バレリーナに学ぶはじめてのバレエ・エクササイズ」
友人はバレエを観賞するのは好きだけれども、自分で教室に入る勇気はないという人。
さしあたり、この本でバレリーナへのあこがれを満たすことにしたと、冗談半分に言います。
この本は、牧阿佐美バレエ団が監修したもの。DVD付きで現役バレリーナがバーレッスンやバレエエクササイズを指南する形です。
基本のバレエ用語や名作のストーリーも載っていて、まさに初心者向けに一通り網羅されていました。
純粋に体型維持や健康管理が目的な人のほか、教室生の自宅の練習用など間口が広そうです。
次に会うときには、友人の姿勢や体型も変わっているかもしれません。
新国立劇場でこの秋、近松門左衛門をテーマとした二つのコンテンポラリーダンスが上演されます。
その一つがアルテ イ ソレラ「女殺油地獄」。
アルテ イ ソレラは「FRAMENCO曽根崎心中」で知られています。
フラメンコと近松作品という取り合わせが、奇矯なようで妙にしっくりと来ました。
今回の「女殺油地獄」も鍵田真由美×佐藤浩希のコンビ。
ストーリーの中でキーワードとなるのが油壺で、演出も油が重要な役割を果たします。
歌舞伎では油の代わりにフノリが使われると聞いたことがありますが、この舞台ではいかに表現されるのか。
挑戦と実験によって新たな世界を開拓するかに見える創作フラメンコに注目しています。
プティの訃報を聞いたとき、最初に頭をよぎったのがこの作品でした。
プティがチャップリンの名作をもとに作り上げた「ダンシングチャップリン」。
周防正行監督による同名の映画が今年春、公開されたばかりでした。
映画は、周防監督とプティとの映画化に向けたディスカッション、それに「ダンシングチャップリン」を集約、再構成した「バレエ」の二幕構成です。
プティ、それにプティによって唯一このチャップリンを踊ることを「許されている」ルイジ・ボニーノ、草刈民代、周防監督。天才が出会うことによってますます進化した作品であると感じました。
一見、散文的なような描写が続く第一幕は、すみずみまで周防監督の計算が施されていることが、後でわかってきます。
「ライムライト」「街の灯」などチャップリンの名作が、バレエによって表現されていく第二幕は、とにかく美しく、感嘆しました。チャップリン作品に感じる 風刺的な意味合いは抑えられていますが、「違うもの」としての完成度が高く、これならチャップリンファンも納得であったのではないかと思います。
プティがこの作品の完成・公開を見届けて逝ったことに、何ともいえない気持ちを抱きました。
フランスのバレエダンサーで振付師、ローランプティ氏が10日、自宅のあるスイスで亡くなりました。87歳。各メディアに掲載されていた写真は、とてもその年齢には見えないほど颯爽とし、瞳には強い力をたたえています。
プティと同時代を生きたベジャールは、プティを評して「フランス人ではなく、パリジャン」と語ったと言います。
まさしく、プティといえば、しゃれっ気、エスプリ。しかし、「コッペリア」のペーソスあふれるラストに代表されるように、作品を彩る洒脱さの底には、人間の深淵なる本質が残酷なまでに描かれていたように感じます。
コクトーとのコラボレーション「若者と死」、「プルースト~失われた時を求めて~」など実に幅広い作品が残されています。
そう書きながら、調べ物をしていて気付きました。亡くなった7月10日は、プルーストの誕生日でもありました。
振付家は、作品となって永遠に生き続けることができます。そう考えると、決して寂しくはない訣別の時です。
映画好きの友人が、コミックや小説を実写化するとき、原作とは別のものだと思った方がいい、と常々言います。原作でつくられたイメージをそのまま投影した映画などそもそも無理、違うものとして楽しむべきというわけです。
ここ最近で実写化するとどうなるのだろうと、不安と期待を抱いたのが、2009年の「昴ースバルー」でした。日本では数少ないバレエ映画です。主演は黒木メイサさん。ダンス歴は長いそうですが、バレエは3カ月間、猛特訓をしてトゥシューズで立てるようになったといいます。
ただ、いくら優秀な役者さんであっても、バレエというのは一朝一夕に身につけるのは難しく、それであればむしろ演技経験のないバレリーナをキャスティング する選択があったのではないかと思います。日々の地道な鍛練が体を作り、雰囲気を醸し出すのがバレエであり、その過程があってこそバレリーナたりえるのだ と逆説的に感じました。
映画は厳しい評価が多かったようですが、原作は非常に面白く読みました。
病気の弟の存在が大きく影響した昴の性格形成、舞台を移し、めくるめく運命。
引き付けられる昴のキャラクターだけに、また「違うもの」として楽しませてくれるような映画ができないかな、と思っています。