バレエの椿姫では、各幕に1つずつある3つのパドドゥを楽しむことができます。。
マルグリットがアルマンを受け入れていく過程が描かれている「青のパドドゥ」。
時折、マルグリットが高慢でさえあるような表情を見せながら、次第にアルマンに惹かれていきます。
私がもっとも好きなのは「白のパドドゥ」。マルグリットがとても可憐で、愛らしい。この白い衣装はアニエス・ルテステュのシルエットが一番きれいに見える、と私は思います。
そして熱情をぶつけ合うような「黒のパドドゥ」。悲壮感が漂っていて、二人の心の闇さえ感じます。
まったく違うキャラクターの女性のようにすら感じる3つのパドドゥです。
ところでアルマンの父デュヴァル氏が、マルグリットを訪ね、別れてくれるよう頼むシーン。申し出を受け入れ、「娘にするような口づけ」を望む場面が何とも切ないです。
全編を通して、「やるせなさ」がこの作品のキーワードだと思っていますが、それを痛切に感じさせるデュヴァル氏とのやり取りです。
子供のころ読んだ、デュマ・フィスの「椿姫」の装丁を、今もはっきり覚えています。
子供心に救いがないように感じられ、何となく影を落とした作品でした。
オペラでは、ヴィオレッタ(バレエではマルグリット)が亡くなるラストシーンでアルフレード(同アルマン)と再会できて、若干の救いがあるのですが、ノイマイヤーのバレエでは、結局、再び会うことができないまま。
アルマンの幸せを思って身を引いたのに、結局、相手を深く傷つけ、自分も孤独に苦しむマルグリット。
ほかの選択はなかったのかと、つい現実的に考えてしまいます。
もっともこの作品は、デュマ・フィスの実体験がもとになっているというので、救いがない結末によって、やるせなさを昇華させているとも取れますが・・。
それでもバレエ作品は、そのやるせなさを視覚でしか感じないせいか、とても好きです。
椿姫の人間関係は非常にシンプルでありながら、脇のキャラクターが利いているというのも、その理由のひとつかもしれません。
ちゃっかりしているという印象の、マルグリットの友人プリュダンス。それにカールパケットが演じる、アルマンの友人、ガストンルルーもとてもチャーミングです。
18日にボリショイバレエ団の唯一の日本人ソリスト、岩田守弘さんの最終公演が行われました。
かなりのメディアで取り上げられ、写真でもその様子を知ることができました。
それらによると、12演目のうち、「魂」「富士への登攀」など岩田さんの振付による作品も含まれていました。
世界最高のボリショイで、退団記念公演を、しかもこれだけ日本的な演目をやることができるという事実に、岩田さんがロシアで培ってきた歴史を思います。
岩田さん振付の作品は特に、日本でもぜひ見る機会を作ってほしいと切望します。
あらためて岩田さんの系譜を、wikipedexiaでたどってみました。
岩田さんがソビエトバレエインスティテュートで学んだ1988年という年。
ゴルバチョフ政権下でペレストロイカが始まった年でもあります。
そんな旧ソビエトで、どんな道を切り開いてこられたのか。
ありたきりに響くかもしれませんが、サムライ魂を感じる人です。
ちょっと書き足りなかったので、「ファラオの娘」の続きを。
ザハーロワのアスピチアはとってもきれいでした。衣装は次々と変わり、2幕で意に沿わないヌビア王との結婚が決まって悲嘆に暮れるシーンの白い花嫁衣裳がとても美しさを引き立てていた感じです。
全編を通して、マリーヤ・アレクサンドロワのラムゼ(アスピチアの侍女)に引き付けられました。2幕のバリエーションの足の甲がとても美しい。
アスピチアがラムゼを身代わりに置いて駆け落ちしてしまうシーンでは、思わず、残されたラムゼはどうなるの、と心配も。こういう展開ってよくありますが、侍女って大変だな、と思います。
群舞は圧巻で、さすがボリショイ。
岩田守弘さんが演じる猿の動きはとてもリアルでこちらも感動。
登場シーンは短くて、そこにもこの作品の贅沢さを感じました。
登場人物の感情の機微みたいなものはあまり感じませんが、あえてそういう演出なのでしょうか。見終わってみると、こういうのも嫌いじゃないよね、と思う作品です。
「ファラオの娘」のDVDを見ました。
エジプトにタイムスリップした探検家とファラオの娘の恋。
19世紀、探検家ウィルソンがピラミッドに立ち寄る→タイムスリップ→タオールとなってファラオの娘アスピチアとの出会い→駆け落ち→婚約者(といってい いのか)のヌビア王の追手が迫り、アスピチアがナイル川に身投げ→ナイルの精の世界→アスピチアがファラオのもとに戻り、タオールへの愛を訴える→全部 ウィルソンの夢だったという展開。
あまり複雑なストーリーは頭にすんなり入ってこない方なので、ピンとこない部分もあったのですが、とにかく衣裳がゴージャスで目を楽しませることができま した。髪型とか衣裳とか、時代考証的にこんなん?と首をひねるところもありますが、19世紀のヨーロッパの、オリエントへのあこがれが全開という気がし て、これもご愛嬌かなと思います。
中でもナイル川の川底を描いた3幕のシーンが、美しかったです。水を基調としたイメージなんでしょうか、青っぽい照明に癒され、全体の中でもほっと息をつきました。
バレエかじり始めのころ、「クラシックチュチュ」と「ロマンティックチュチュ」を誤解していました。
古典的なニュアンスのある「クラシック」の方がもともとあるものだと思い込んでいたのですが、実際はロマンティックの方が先。スカートの丈がふんわりとし て長く、「ジゼル」「ラ・シルフィード」などで使われます。ジゼルなど、幻想的なイメージの作品に、裾の広がった衣裳が符号します。18世紀のロマン主義 の時代に出てきたスタイルです。ドガの絵に出てくる風景もこの時代のもの。
そのあとに出てくるのが「クラシックチュチュ」。丈が短いチュチュです。バレエの動きが高度かつ複雑になり、連続回転やグランパドドゥといった動きもしやすい衣装になりました。
衣裳はこの2つに大別されると言われますが、このほかに「海賊」やジュリエットに使われるワンピースタイプの衣裳があります。衣装レンタルのショップなどでは「ジョーゼット」「村娘」などといったカテゴリーに分けているところもあるようです。
バレエの衣裳は、作品の雰囲気だけでなく、作られた時代背景を思わせ、見るのが楽しみです。