さて、先に少しだけ書いたカルメン。
これはパリ・オペラ座バレエ団2005年のDVDでですが、カルメンを演じるクレールマリ・オスタがまた素晴らしい。
その素晴らしさを一番感じたのは、実はカーテンコールのときでした。
オスタのノーブルな素顔をカーテンコールで見たときに今更ながら、この人はカルメンの少し下卑た、危険な女になりきっていたんだ、と気付きました。
それぐらい、完全にカルメンでした。
プティの振付けがまた、カルメンの小悪魔的な雰囲気をより引き出しているのでしょうか。
ラストで、ホセにナイフを突き出され、平手打ちをされても一向に怯えず、ひるまず死んでいくカルメンの強さは、女性をも引きつける理由ではないでしょうか。
「カルメン」を見ました。
原作のメリメの小説は、当時のスペインの民族的なことなど、社会的な背景をえぐったものだったと言われていますが、オペラやバレエなどでは闘牛をモチーフに取り入れるなど同国の陽性なイメージが全面に押し出されているようです。
日本でも一時期フラメンコブームによってスペインが注目されていましたが、スペインとカルメン=色っぽい女性というイメージを重ねる人は今でも少なくないのではないかと思います。
一人の男が、自由奔放な女カルメンに人生を狂わされて転落していくというストーリー、救いは何もない終わり方の割にはその暗さをあまり気にせずに楽しめるのは、良いのか悪いのか。
カルメンのアリア「ハバネラ」など耳に親しい音楽にも注目です。
「イヴァン雷帝」はもともとボリショイバレエの作品ですが、私が見た「イヴァン雷帝」は2004年パリ・オペラ座。
そのせいなのかどうか、あまりロシア臭がしないように感じるのは私だけでしょうか。
スラブの香りがしないのです。
雷帝のニコラ・ル・リッシュの異様な迫力もアナスタシアのエレオノーラ・アバニャートの美しさも素晴らしいことはもちろんなのですが、
ロシア的な感じがしないな、というのが最初の印象でした。
演出とか衣装とかそういったものに何か問題があるというわけではたぶんないと思うし、作品全体の価値が変わるわけでももちろんなく、私の中の
イメージと一致しないというだけのことだとは思うのですが。
そんな中で、私が「ロシアっぽい」と勝手に感じたのは、ラストシーンの鍵ともなっている道化者です。
イヴァンと親衛隊が鞭を振るって粛清をしていく中で、一人の道化が踊る。
その道化の中にいるのは実はイヴァン。その道化に首に縄をかけられてつり上げられて終幕。
ロシアという国、あるいは狂気に踊らされ、捕らえられて一生を終えたイヴァンを象徴しているのでしょうか。