イヴァンが生涯で最も愛したと言われる妻アナスタシア。一幕でも二幕でも密着度の高い二人のパドドゥが見られます。
特に二幕のパドドゥは、折りたたまれ、重なり合い、なまめかしい二人の時間が表現されています。
アナスタシア役のエレオノーラ・アバニャートが実に妖艶です。
イヴァンを恨む人々の陰謀によって毒を盛られ、瀕死の状態であるアナスタシアの足下にざわざわと伸びる人々の手が、地獄からの誘いのようにも感じられ、印象的でした。
終盤のアナスタシアの幻影とイヴァンとののパドドゥも、アナスタシアが本当に生身の人間ではない不可思議な存在のようにぴったりと張り付く動きを見せています。
グリゴローヴィチの振付けでは、イヴァンの内面の孤独さやアナスタシアとの夫婦愛がより引き立っていると言われます。
狂気じみた粛清の陰に本当は孤独な心があったのか、どうなのか。
残虐な帝王の内面が実は孤独で、愛を求めたというロジックは分かりやすいものではありますが、果たしてどうだったのでしょう。
酒池肉林に耽っていたという史実(とされるもの)からはあまりそういった内面は、私には伺えないのですが、そんなイヴァンの内面を想像しながらも楽しめる作品のように思います。