井上バレエ団のダンサー、バレエミストレスとして活躍する一方、自らのスタジオ「バレエスタジオF」を主宰する越智先生。舞台で培った経験を生かし、バレエの指導を通し「強い心を育てたい」という教育理念をお持ちです。本記事では、その歩みと想いをじっくり伺いました。
井上バレエ団とブルノンヴィル
先日行われた公演の話から聞かせてください。 石井版白鳥の湖はすごく面白かったです。
越智先生: 井上バレエ団は純粋にブルノンヴィル・スタイルを継承しています。デンマークの王立バレエ団から先生方を呼んで、本当の元、大元を直接私たちは、朝のバレエ団のクラスで教わっているので。
朝のクラスは、プロのバレエ団員のクラスですか?
越智先生: そうです。月曜から金曜の午前中は、準団員も団員も全員そろってクラスを受けています。曜日によって担当が変わり、バレエ団の先生が指導される日もあれば、外部カンパニーの先生をお招きする日もあります。さらに、ブルノンヴィル作品に取り組む際には、デンマークから先生方をお呼びして直接指導を受けています。
デンマーク流のレッスン
デンマークの先生による指導は、どのような内容なのでしょうか?
越智先生: とても特徴があります。たとえばセンターレッスンの内容は月曜日から土曜日の名前をつけた6つのグループに分かれていて「月曜日の何番」「火曜日の何番」という具合にエクササイズの内容も音楽も決まっています。月曜はこれ、火曜はこれと、曜日ごとに行う内容が決まっているんです。「マンデークラス」「テューズデイクラス」といった形で、土曜日まで続いています。デンマークのバレエ学校の生徒やプロのダンサーたちは、子どもの頃からその流れで訓練を受けているので、順番も自然に体に入っていますが、私たちは、なかなか順番を覚えられなくて、クラスについていくだけで必死という感じですね。
演劇の要素が強いので、見ていて分かりやすいですよね。
越智先生: そうですね、お芝居がすごく大事にされています。日本人はどうしても芝居が苦手な方が多いでしょ、テレビの演技とも違いますし、セリフもありません。たとえば『ラ・シルフィード』を踊る場合、バレエのリハーサルよりも、お芝居のリハーサルの方が長く行われたんです。
芝居と踊りを音に合わせる“ブルノンヴィル”
即興の余地はないわけですね。
越智先生: そうですね。もちろん演じるダンサーによって多少は違いますが、基本的にはすべて決まっています。そして絶対に音楽とずれることは許されません。踊りもそうですが、お芝居の動きですら音と完全に合わせるんです。「このマイムの音はこうだから、この動きになる」というように教わります。
オーケストラと臨む一発勝負の本番
本番ではオーケストラの生演奏ですよね。レッスン用の音源とはかなり違うのでは?
越智先生: はい。指揮者の先生もリハーサルに来てくださるので、ある程度合わせてくださいます。楽譜通りだとすごく速いテンポのところを、バレエではあえて少しゆっくりとしたりするので、そのあたりは指揮者が見ながら調整してくれるんです。ただ、本当に合わせられるのはプレビュー公演の時が初めてなんですね。ワンチャンスなんですよ。
プロはすごいですね。
越智先生:
でもね、音が早すぎたり、遅すぎたりでびっくりします。ゲネプロで確認して、夜の本番までに合わせます。
もちろん指揮者の先生方もオーケストラの方たちも調整はしてくれるんですけど、今まで練習してきたCD通りのテンポまではならないとわかっているので、もうしょうがないから、「やろう、やるしかないね」という感じです。
発表会に欠かせないゲストダンサー
公演の振付をされた石井竜一先生は、バレエスタジオFさんの第2回から5回発表会のゲストとして出演されています。
越智先生: そうなんです。井上バレエ団でも、さっきお伝えした午前のカンパニークラスをずっと教えてくださっていて、バレエ団でもたくさんの公演を振り付けされていているので、そういうご縁もあってお願いしています。先生には男性ゲストについても紹介していただいています。もちろんバレエ団で仲のいい同僚にもまず声をかけたんですけど、いざ、「グラン・パ・ド・ドゥを踊りたい」と生徒たちから希望が出たら、やっぱり1人のゲストに任せるの無理じゃないですか。
「一人に任せるのは無理」というのはどういう意味ですか?
越智先生:
例えば、3人の生徒が「男性と踊りたい」と希望したとします。でも男性ダンサーが1人だけだと、体力的に無理なんです。だから3人必要になるんですね。
そういう時に石井先生が「その子は何歳くらい?背の高さは?」と細かく聞いてくださって、生徒に合うゲストを紹介してくださるんです。そして、ご自身も踊っていただいています。先日のバリエーションコンサートの際には監修にも入っていただきました。
監修もされたのですか。
越智先生:
発表会では、私が演出や振付をすべて担当していても、自分が舞台に立って踊っている時に客席からの見え方までは確認できません。やはり指導者がいないと絶対にダメなんです。自分だけの判断では作品が崩れてしまう。だから必ず先生に見てもらうことが必要だと思っています。
これは井上バレエ団の岡本佳津子先生からも強く言われてきました。「どれだけ経験を積んでも、舞台に立つ時は必ず先生に見てもらいなさい」と。その言葉を守って、私は佳津子先生に見ていただいていましたが、今では竜一先生にもお願いして、発表会で私がグラン・パ・ド・ドゥを踊る際なども見てもらっています。
また、男性パートについては、竜一先生の方がゲストに伝えやすいんです。私は振付を考えることはできますが、男性ダンサーに対して強く指導することは難しい。彼らは生徒ではなく、あくまでゲストですから。でも竜一先生がいると、はっきりと指摘してくださり、男性陣もピリッと引き締まるんです。本当に助かっています。
受け継がれる振付
石井先生改訂振付された今回の白鳥の湖は、元々関直人先生が振り付けされた作品ですよね。
越智先生:
そうです。関先生は井上バレエ団で全ての振付をされていて、石井先生は『くるみ割り人形』の王子様などもダンサーとして踊っていました。
石井先生は踊り手を引退されてから「振付家になりたい」とおっしゃっていて、関先生から大きな影響を受け、深く尊敬されています。今回の流れも、その関係性の中で自然に生まれてきたものだと思います。
バレエミストレスとしての指導と責任
ご自身も舞台に出演されましたが、改めてどのようなご感想をお持ちですか?
越智先生:
私は今回キャラクターの踊りを踊りましたが、バレエミストレスとして一幕の村娘や、白鳥のアンサンブルなどを見ていました。二幕と四幕はほとんど関先生の振付のままです。あそこは海外でも大きくは変わらない部分だと思います。
ただ、一幕はガラッと変わっていて、指導する側としても難しかったですね。振付自体が高度なので、やはり個人の実力が上がらないと、石井先生が本当に描こうとしている世界を表現するのは難しいのではないかと感じました。
バレエミストレスとは、具体的にどんなお仕事なのですか?
越智先生:
基本は「指導」です。アンサンブルを揃え、全体を調整することですね。朝の稽古が終わると昼から夜までリハーサルがあり、音のタイミング、手の使い方、首の動きなどを揃えていきます。クオリティを上げる作業の繰り返しです。
振付や全体の方向性は石井先生がバレエマスターとして担当されていますが、女性の人数がとても多いので全てを一人で見ることは難しい。そこで、もう一人の鈴木先生と私でバレエミストレスを務めています。曲に遅れてるよ、とか手の位置が低いよとか、そういう細かい指摘をひたすら繰り返す。基本的には本当に「指導ばかり」です。
アンサンブルはとても素晴らしかったです。
越智先生: ありがとうございます。でも毎回見ている側としては「ここは惜しいな」というところがやっぱりたくさんあって。もちろん完璧を目指すのは難しいんですけどね。
関先生の思い出
ところで、関先生について書かれた本を読んだのですが、先生は「そんなんじゃダメ、コロスわよ」と実際に言われていたんですか?
越智先生: はい、普通に言われていました(笑)。先生はあだ名をつけるのが好きで、東久留米出身の子は「東久留米」、川越に住んでいる子は「川越さん」と呼ばれていました。私は「越智ふじの」なんですが、なぜか勘違いされて「しのぶ」と呼ばれていて「しのぶ、コロスわよ」って普通に言われていました。昔なので、今とは全然違いますね。
でも先生は基本的に優しい方で、本当に声を荒げて怒ることは滅多にありませんでした。ただ、その静かな怖さがあって、笑顔で「コロスわよ」と言われても、多分本気なんだろうなと感じて、こちらも「ちゃんとやらなきゃ」と思わされました。
今はもう、関先生をもうご存じの団員も少なくなってきています。
ピーター・ファーマーの衣裳と柊舎
井上バレエ団さんで着られているピーター・ファーマーの衣裳ですが、 どこで作られたものですか?
越智先生: 井上バレエ団の衣裳をご担当くださっている柊舎(ひいらぎしゃ)さんです。
デザインはピーター・ファーマーさんから直接送られてきていたのですか?
越智先生: もう本当に大昔の話なので、私も詳しくは知らないんです。ただ当時は、柊舎の方々が現地に行って、生地を一緒に買ってこられていたらしいです。「このデザインにはこういう生地がいい」というふうに。今はファーマーさんも井上先生も亡くなられてしまいましたが、後を継いでいる若い方たちが、当時の雰囲気を崩さないように受け継いでくださっています。
衣裳は当時のものをそのまま使われているのですか?それとも作り直しているのですか?
越智先生: 作り直すこともあります。例えば思い切り破れてしまった場合は、その部分を取り替えたり、新調したり。でも基本的にはほとんどそのまま使っていますね。
ダンサーによってサイズが合わないこともあるのでは?
越智先生: もちろんありますよ。そうすると「ちょっと痩せなさい」なんて言われることも(笑)。でも、基本となるデザインは決まっているので、大柄な人がいる場合は、その人用に新しく大きいサイズを作っていただいています。
衣装、とても素晴らしかったです。見ているだけでも楽しめました。
越智先生:
ありがとうございます。衣裳自体は本当に変わらないのですが、今回変わったのは一幕と三幕の黒鳥の衣裳です。ストーリーが少し変わったので、石井先生のイメージで新調されました。
オデットはどうだったかな……。昔とはダンサーの体型が違うので、新しく作られたものかもしれません。それ以外は、私が着た真っ赤なチャルダーシュの衣裳や、真緑のマズルカの衣裳なども、全部そのまま残っていると思います。
チャルダーシュの時、かかとの高いシューズを履いて踊られていました。
越智先生: あれも柊舎さんが用意してくれました。 昔からあのままです。
素材は何ですか?
越智先生: 普通の皮です。ベルトが付いていて普通に歩けます。
チャルダーシュってものすごく激しい動きですよね。
越智先生:
ゲネプロとかで、私なんか普通に歩いて出てくるだけなのに、くじいちゃいそうになります。
それと、男性が履いていたグリーンとか赤いブーツ、あれも全部そのままです。
だから保管もすごく厳しく管理されていて、汗をかいたらすぐにこうするとか、もう全部決まっているので、すごい手間をおかけしています。
なるほど。
越智先生: そして、毎年白鳥がやれるわけではなく、期間を置いておくと、衣裳というのは保管しているだけでも傷んでしまうんです。その保管作業自体がとても大変なんです。
生地によって保管の方法も違ったりするんですよね。
越智先生:
そうです。だから、生地をいくつも合わせて作られた衣裳は、ものすごく扱いが繊細になるんです。
どこのお衣装さんもそうだと思うんですけど、衣装の取り扱いは本当に厳しくて。
でも、柊舎さんはすごくダンサーに寄り添ってくださいます。
柊舎さんは、何人くらいいらっしゃるんですか?
越智先生:
私が知っている範囲では、男性の担当の方が2人、頭飾りを担当される方が1人、女性衣裳を担当される方が2人ほど。重複して担当されている方もいらっしゃいます。それに加えて副社長さんと社長さんですね。
例えば、オペラチュチュとかになると毎回スチームアイロンをかけてくださるんですよ。夏なんかは、汗すごいですから。
男性の衣裳もゲネプロが終わった後に全部ひっくり返して、大きな扇風機で乾かしてもらって、本番までにはめっちゃ綺麗な状態にしてくれます。
柊舎さんの人数で出演者の全部をできるのは、ほんとすごいなと思います。
ご縁に導かれたプロダンサーへの歩み
ところで、先生がバレエを最初にはじめられたのは、どちらの教室だったのでしょうか?
越智先生: 私が1番最初に習い始めたところは小林紀子バレエアカデミーでした。そこから大倉バレエに行って、大倉啓誠先生にずっと個人指導していただいていたんですね。 そこから井上バレエ団に、それこそ関先生のくるみ割り人形の全幕で、子役の女の子の主役クララをどうかっていう風にお話をいただいて、それではじめて井上バレエ団で踊りました。
オーディションではなかったのですね。
越智先生: オーディションじゃなくて、大倉先生が推薦してくださって、それで出られたんですね。小学校6年生の時でした。
大倉先生と井上バレエ団さんのつながりは?
越智先生:
大倉啓誠先生の息子さん、大倉現生先生が井上バレエ団で主役を務めたり、ゲストとして呼ばれたりしていたんです。そうしたご縁がありました。
ただ当時は、日本のバレエ団はどこも先生方同士がお知り合い、という感じでしたね。みんながみんな繋がっているような時代だったと思います。
私自身は、公演が終わった後はまた啓誠先生の指導を受けていたのですが、その頃には先生もご高齢で、「井上バレエ団の学園に入ってみないか」と勧められたんです。私は背が低かったので、身長制限のあるバレエ団には入れないと啓誠先生も分かっていらして。だからまずは井上バレエ学園に入るのが良いのでは、ということでした。
学園に入ってみて、いかがでしたか?
越智先生: それまで小学校1年生からずっと個人レッスンだったんです。なので、クラスで他の生徒と一緒に稽古を受けたことがなくて。最初は順番すら覚えられませんでした。人がやっているときに自分は待つんだ、ということすら分からなかったんです。それまでは2時間まるまる自分がレッスンできる環境でしたからね。だから初めてクラスに入った時は、「ただ見ている時間があるんだ」と驚きました。
「プロとしてやっていこう」と考えられたのはどのようなタイミングでしたか?
越智先生:
18歳くらいの時ですね。その頃にはもう「絶対にバレエをやる」と決めていました。
大学には行かない、絶対に行かないと家族にも言って(笑)。それで準団員に入れていただいて、そこから団員になりました。
思いがけずスタジオを開くことに
正団員になられた3年後の2015年にスタジオオープンされました。当時は井上バレエ学園の講師もされていました。
越智先生:
そうなんです。18歳で準団員になって朝のカンパニークラスを受けていたんですが、その時に「学園のクラスも受けていいよ」と言っていただき、中高生のクラスに混ぜてもらっていました。
でも、朝のクラスが終わると、リハーサルがない日は5時間くらい空いてしまうんです。その時間を普通のアルバイトするよりも、子どもたちを教えた方がいいのではないかと両親にも言われましたし、佳津子先生からも「じゃあ小さい子のクラスで助手みたいにやってみたら?」と勧められて、教えることを始めました。
そこからすぐに「系列の教室に行って教えてくれる?」と頼まれて、小学生を教えるようになったんです。でも、まだ20歳くらいだったのに、高校3年生の生徒を指導することもあって、「私で大丈夫なのかな」と不安になることもありました。
でも、その教え先が神奈川の南林間の方で、通うのがちょっと遠かったんですね。教え終わって帰ってきて、次の朝にはまたバレエ団のカンパニークラスに行く。毎日ではないにしても、正直きついなと思うこともありました。
そんなときに両親が「自分でスタジオをやってみたら?」と言ってくれて。それがスタジオを開くきっかけになったんです。
スタートと家族の後押し
なるほど。越智先生自身は、教室をやりたいっていう気持ちをお持ちだったんですか?
越智先生:
全くなかったです。むしろ、子どもはちょっと苦手で(笑)。
特にちっちゃい子。今でもそうなんですけど。中高生とか、小学校高学年ぐらいだったらいいんですけど、3歳から5歳ぐらいのちっちゃい子は、昔から結構苦手で。
だから、ここのスタジオも、せっかく改装したんですけど、オープンするまで迷って、半年ぐらい放置しちゃったんですよ。
スタジオのオープンが2015年の5月ですよね。 では、ご自宅の部屋をスタジオに改装されたのはいつですか?
越智先生: 前年の8月くらいにはもうできていました。その時は私自身がここで練習していたんです。でも「せっかく改装したし、このままじゃもったいない」と思って。ただオープンするにあたって問題は、生徒をどうやって集めるかでした。
最初の生徒募集
どのように生徒さんを集められたのですか?
越智先生:
はじめは「とっかかりをどうしよう?」「どうやって生徒呼ぶの?」といった感じでした。色々調べて、最初にしたのがポスティングですね。「開校します」というチラシを作りました。無料体験レッスン日を土日だけ4日間するという内容を載せ、近くのエリアに配りました。
そうしたら最初、意外と反響があったんですよ。ただ、体験に来ていただいても入会に結びつくかはわかりませんよね。でもこの場所が住宅街にあり、近くに区立の小学校もあったので、「意外と子どもが多い地域なんだ」と気づきました。実際、目の前のマンションに住むお子さんが通ってくれるようになったんです。歩いて20秒ほどの距離で(笑)。
そうして、生徒さんが20人ほど集まった頃、「ただレッスンするだけではつまらないかもしれない」と思い立って、無理やりでしたけれど、少人数で発表会のようなものを企画してみたんです。
初めての発表会とホール探し
発表会は、目標を立てるため。
越智先生:
はい。ただ発表会自体も、「どうやってホール取るの?」というところから始まりました。
それで、文京シビックに電話をかけまくって、ホールの方に1からすべて教えていただいたんです。抽選の仕組みや、当選するかどうかが何か月も先にならないとわからないことなど、何も知らない状態で、とにかくホールの方に頼りきりでした。
最初から文京シビックで発表会をやると決めていたのですか?
越智先生: うちはもう、絶対にシビックでした。
それはなぜですか?
越智先生: それは、皆さんが「近いから」です。おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでいるご家族も多くて、ちっちゃいお子さんもいる。だから、観に来やすい場所が大事なんです。文京シビックは区役所でもあるので、誰もが一度は行ったことのある場所で安心して来ていただけるんですよね。
一度、新宿で発表会をされています。
越智先生:
はい、その時はシビックが改装中で使えなかったんです。うちだけでなく、みんなホールを探していて争奪戦のようになっていました。運良く新宿の会場を取ることができたのですが、衣装を運ぶのも大変でした。
また、シビックなら井上バレエ団もずっと使っていて勝手がわかるので、楽屋の入り口やロビーの使い方など知っていますが、よそのホールだと私自身がまず確認に時間を取られてしまい、生徒たちに「楽屋はここから入ってこうだよ」とすぐに伝えられないんです。
スタジオ名とロゴの由来
教室のロゴやマスコットにワンちゃんのイラストを使われていますが。
越智先生: あれは、うちの犬なんですよ。
イラストを描かれたのは?
越智先生: バレエ団にいた後輩が描いてくれました。黒いのと茶色いの、どちらも我が家の犬で。最初は「ロゴマークはやっぱり“ザ・バレエ”っぽいものにしようかな」と思ったんですけど、せっかくだったら犬に踊らせたら面白いんじゃないかと、絵が得意な後輩にお願いしたら、すごく可愛いイラストを作ってくれて、それ以来ずっと使わせてもらっています。
スタジオ名「バレエスタジオF(エフ)」というのは「ふじの」の「F」ですか?
越智先生:
そうです。もう雑でしょ(笑)。なんのひねりもないです。かっこいい名前が何も思いつかなかったんです。
最初は「Fバレエスタジオ」にしようかなって、岡本佳津子先生に話したら、「やめなさい。よそのバレエ団みたいだから。せめて最後にずらしなさい。」って言われて、それで「バレエスタジオF」になったんです。本当に何のひねりもないんですよ。みんなは可愛い名前をつけたりするじゃないですか。
名前はオープンのどのくらい前に決めたんですか?
越智先生: 先程お話ししたポスティング用のチラシに名前を載せないといけないので、ギリギリで決めました。最初は「バレエスタジオ」だけでもいいのかなと思ったんですが、「それじゃダメでしょ」ということになって(笑)。それで「じゃあ“F”をつけよう!」と。そんな感じで決まりました。
地域に根ざした「続けやすい」レッスンづくり
スタジオオープンされた時に、「こんな教室にしよう」というイメージはありましたか?
越智先生: はい。うちはもう絶対に“地域密着型”で無理なく続けられる教室にしようときめていました。バレエ教室の中には、週に必ず3回通わなければならないとか、学年ごとに「週何回以上」といったルールがあるところもありますよね。でも、この地域の環境を見ていると、やはり学業が最優先なので、うちではそういった取り決めはしていません。
バレエと勉強、どちらも大切
この地域は学業が最優先なんですね。
越智先生:
親御さんも最初は「バレエくらい習わせてみようかな」と思ってくださるんですが、小学校高学年になると中学受験で塾が一番になりますから。
また、金銭的な面でも無理なく続けられる設定にし、普通に楽しく長く続けられるスタジオにしようと考えました。
はっきり言って、みんながバレリーナになるわけではないですから。もちろん夢を持って頑張る子がいるのは嬉しいです。でも、高校に入ると部活が優先になったり、大学進学で辞めてしまったりする子も多い。それはわかっていたので、生徒には「今この瞬間を楽しく過ごしてくれればいい」と思っています。
でも、ご自身はプロのバレリーナですよね。
越智先生: そうなんです。でも、私みたいにバレエを人生の中心にする人は本当に少ないですよ。親も応援してくれていました。うちの親もちょっとかわっていたんですね。ありがたかったです。
もし才能のある子がいたら育てたいとか、そういう夢はありますか?
越智先生:
もちろんあります。実際に今、一生懸命頑張ってくれている子もいます。
でも、あまり期待しすぎないようにしています。
その子自身は「ずっとバレエを続けたい」と思っていて、私もできる限り応援したい。でも、ご両親の考えは違うかもしれない。だから、あえて強くは言わないようにしています。
生徒が辞めるときに思うこと
そう考えられるようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
越智先生:
特にないです。もちろんはじめの頃は、生徒が辞めると、「せっかく発表会でトウシューズ履いたのに、辞めちゃうんだ」って寂しい気持ちになっていました。「なんでだろう」と落ち込みもしましたが、結局は引っ越しとか、バレエの送り迎えができないとか、どうしようもない理由ばかりなんですよね。
でも、「この先ずっとバレエじゃなくても、自分を鍛えられる考え方や、自分に厳しくすることを教えてもらってありがとうございました」って笑顔で言われると、すごく救われるようになりました。
スタジオを続ける一番の理由
スタジオを続けられていて良いことは何ですか?
越智先生:
井上バレエ学園だと、一番小さいクラスを私が見ても、次のクラスは違う先生、さらに上のクラスもまた別の先生が教えるんです。他の先生が見ちゃうと、最初に私が見ていても口は出せなくなっちゃうので。
でも自分のスタジオだと、一番下から一番上まで、自分の見られる範囲でずっと育てられる。それが唯一、今も続けていられる理由でしょうか。
「ちっちゃい子」で成り立つスタジオ
先ほど、小さいお子さんは苦手と伺いましたが、スタジオには小さい生徒さんがたくさんいらっしゃいますよね。
越智先生: そうなんです。今はむしろ、ちっちゃい子たちで成り立っているようなものなんです。
え?苦手なのにどのように対応されているのですか?
越智先生: わからない(笑)。でも、例えば保育園が一緒の子がお友達に誘われて体験に来て、「○○ちゃんも通ってるから」って、そのまま入会してくれることがあるんです。地域が狭いので、そういうつながりが結構大きいんですよね。
もちろん助かるんですけど、ちっちゃい子を教えるのは本当に大変です。
一方で、上の学年の子たちは受験でどんどん辞めていってしまいます。今度発表会があるんですが、振り付けが始まったばかりなのに、もう小学校4年生の子が2人辞めてしまいました。
バレエと受験
受験の影響が大きいのですね。
越智先生:
はい。特に8月の終わりって、塾の夏期講習がすごく厳しいらしいです。その時期に、バレエと塾の両立で子どもたちが滅入ってしまって。本人はバレエをやりたい気持ちがあっても、親御さんとしては「塾を優先しないと」と考えられるんですよね。
文京区は特にそういう意識が高くて、学校の数も多いですし、親御さんがわざわざ学業のために引っ越して来られるケースもあるそうです。だから私は、絶対に逆らわずに「来られるときだけでいいですよ」というスタンスでやっています。
平日と週末を分けた指導スタイル
スタジオ開設当初のレッスン体制についてお聞かせいただけますか。
越智先生:
スタジオを開いた最初は、土曜日、日曜日のクラスと水曜日の4時から小学生クラスをしていました。ただ、水曜日はバレエ団のリハーサルを途中で抜けないといけないんです。その時はまだバリバリ現役で踊っていたので、それがもう嫌で。私は「踊ることが一番」だったのでリハーサルを抜けてまで教えるのは違うんじゃないかと思って…。そこで生徒に「土曜日に来られる?」と聞いたら、「来られる」という答えでした。じゃあ土日だけに集約しようと決めました。
バレエ団は基本的に本番以外の土日には仕事が入らないので、土日はスタジオ、月〜金曜日は団に専念できるようになったんです。今は踊るより団員を見る立場ですが、平日はしっかりバレエ団にいられるようになりました。
平日と土日を分けられたのですね。
越智先生:
そうです。バレエ団では、他の先生がいない時でも「私がいるから大丈夫ですよ」と言えるようになったし、先生方も任せてくれるようになりました。
私は、効率よくできないから、平日はバレエ団、土日はうちの教室という風にしないと、どっちも雑になりそうで。バレエ団でリハーサルした後、教えに行っていた時はやっぱ疲れていました。
ということは、一週間休みなしですか?
越智先生:
ないです。ないです。でもね、全然いいです。1日1か所で終われば。私は、どこかに行って仕事をして、またここに戻って仕事をしてっていうことを20代前半の時はやっていたので、それよりはもうここでずっと長くやっていた方が良いです。
まる1日の休みは、たまの祝日とかですかね。
旅行に行ったりは?
越智先生: いやいや、行ってもいいですけど、行かなくてもいいかな。 家でビールを飲んでる方がいいです。私は(笑)。
ではご趣味は?
越智先生: 趣味なんてないですよ。全然ない、ない、ない、ない。
実は、子どもに接するのが上手?
先ほど「小さい子は苦手」とおっしゃっていましたが、バレエ団の先生や親御さんから「子どもに接するのが上手ですね」と言われることもあるそうですね。
越智先生: そうなんですよ。そんなはずはないって思うんですけど(笑)。でも多分、私自身が子どもっぽいから、似た者同士みたいになっちゃうんでしょうね。友達みたいな感じで接しちゃうから。私としては苦手なんですけど。
スタジオを開く時、「小さい子は苦手だから大きい子だけにしよう」とは考えなかったんですか?
越智先生: それだと多分、生徒が集まらなかったと思います。小学校3年生からバレエをやりたいっていう子はまずいなくて、大体ちっちゃい頃からやっています。1回やっていたけど辞めて、またやりたくなったっていう子もいました。でも小学4年生からはじめてバレエをやりますという子は何人かいたんですけど、やっぱり難しくて、どうしても差がついてしまいます。
トウシューズとレオタード
1番は身体の柔軟性ですか?
越智先生: それは大きいですね。1番ちっちゃいクラスの子は、まだ骨がしっかり出来上がってません、ムニャムニャなんですよ。 ただ、4年生とか3年生になるともう骨格が決まってしまいます。水泳とかとまた違うんです。
水泳ダメですか?
越智先生: ダメではないですけど、ちょっと違います。
トウシューズを履けるのは何年生からですか?
越智先生: うちは4年の夏終わりぐらいに一応はしています。
小学4年生からはじめてバレエをやりますという子は、トウシューズを履けるぐらいですもんね。もう骨が固くなってますね。
越智先生: そうなんですよね。やっぱり1番の問題は足首。足首を伸ばす練習をしているから、あの靴でも立っていられます。伸ばすこと自体がまだできてないのに、あれを履いても結局立てない。ただ痛いだけ。それで、嫌になってやめてしまいます。でも、全然できていなくても、トウシューズを履いてポンポンポンポンやっているだけで楽しいという子はいます。やっぱりトウシューズは憧れみたいですから。
そうですよね。
越智先生: 子どもを習わせているお父さんやお母さんたちも、子どもがトウシューズを履いているところを見たい。あとは、やっぱり発表会の時に着る舞台衣装ですよね。ママもパパも、もう目がハートですよね。
よく聞きます。
越智先生:
また、うちはレオタードがクラスごとのカラーを指定して決めていますが、
1番ちっちゃいクラスの子どもが、レオタード着た瞬間は、お父さん、お母さんたちが写真を撮りまくっていますからね。
レオタードの色は、1番ちっちゃいクラスが赤なんですね。
次が白で、次が黄色で、次がグリーン。
それで、高校生は黒にしているんです。中学生はグリーンで、高校生になったら黒いレオタードにしています。
黒も同じデザイン・形のレオタードですが、やっぱりみんな黒いレオタードが憧れみたいです。
黒がかっこいいじゃないですかね。なんとなく可愛い色とかが苦手になる年頃があるみたいで、小学3年生とかでも、結構、もう絶対ピンクやみたいな子もいます。
“地域密着型”生徒募集の方法
今、生徒募集はどのようにされていますか?
越智先生:
教室案内のリーフレットとホームページです。
あとは、この地域を走っている、小さいコミュニティバスの時刻表に広告を載せています。文京シビックや文京区の図書館とかそういうとこに置かれるので、皆さん時刻表を取っていかれます。
「時刻表の広告を見た」という問い合わせはありますか?
越智先生: ほとんどありませんが、その広告を見て、結局ホームページを見るのかなと考えています。
そうだと思います。バス関係の広告は良いと聞いたことあります。
越智先生: たまたま、時刻表の広告の枠が空いたという案内がきたので出したんで。この辺は、細い道が多く、なかなかの山だから、大きい車が通れないんです。だから人も多くの人がコミュニティバスを使っています。
あの媒体は、枠空かないと取れないですから。
お値段が手頃だったら、その広告枠は続けられた方が良いと思います。
また、効果があるのは看板です。バレエスタジオ様は、綺麗なかっこいいイメージで作られていますが、でも1番わかりやすいのは、大きなカタカナで「バレエ」と載せることです。
“BALLET”?
越智先生: そうですね、確かに英語じゃなくて。
はい。英語のバレット(BALLET)だと、実はバレエをしている人以外ほとんど読めなくて。
越智先生: お菓子屋さんの名前とかもそうですよね。なんかかっこよくフランス語とかで書かれても結局読めないから。 あれ美味しかったけどなんか調べられないし。
振り付けを考える楽しさに気づいて
スタジオを始めてから気がついたことはありますか?
越智先生:
得意不得意、良い悪いは別として、スタジオをやってみて、自分は振り付けを考えるのが好きだということに気づきました。
1回目発表会は、ちっちゃい子たちだけで、やれる技が少ないから、走ってスキップとか飛ぶとか、そういうことしかできなかったけど、それをなんとかうまくやれないかと考えました。今は、1番大きなクラスが中高生なので、踊りもかなり難しく、それを音に対してこの振りを、音を主体でこの動きが合うかなって考えるのが結構好きです。
振り付けは、頭の中一気に、音を聞きながらやります。
例えば、バレエ団に行く車の中でその音を聞きながら考えています。
また、人数にもよりますけど難しいものも1日に1曲、絶対に振りを上げると決めています。
途中で止めてしまうと、
「昨日すごくいいやつ考えたんだけど、何だったっけ?」という風になるから、それがものすごく悔しいから、1日で思いついたらどんどん書いていって、個条書きみたいに最初して、それで、清書します。
実際、どうやって書いているのですか。図解のような感じですか?
越智先生:
いいえ、全部文字ですね。
また、並び順は最終的に決定してから作ります。そうしないと、ちっちゃい子は、1番に飛ぶ子、2番に飛ぶ子、3番に飛ぶ子って覚えても、1番の子が辞めちゃったりすると、せっかく覚えてくれたのに、最初からやり直しになってしまいます。
ノートの書き方は、どなたかに教わったのですか?
越智先生: 自己流です。もしかしたら自分が踊っているのを映像で撮っている人もいるかもしれないですが、私はそういうのができないので、自分が思い出しやすいように書いています。生徒に「振りを渡すねって」言ったときすぐ渡せるように。最初の頃はコメントがすごく多くて、わかりづらくなってしまいましたが、今は、自分にわかりやすくしています。私が分かれば踊って見せてあげて伝えられるから。まずノートを自分が理解できるように、すごく前に作った作品でも解読できるようには作っています。ただ、中高生の作品になってくると、かなり複雑になってくるからやっぱり難しいですね。
団のバレエミストレスとして
そのことは、バレエ団の方を指導するときに、フィードバックされることはありますか?
越智先生:
それはあまりありません。バレエは技が多そうに見えて、そんなにないんですよ。新しい動きの組み合わせはたくさんあると思うんですけど。
ただ、ミストレスをしていて、例えば、白鳥のアンサンブルだったら、みんなが迷わないように、手の行き方を外から入る、中から入るかを決めています。これだけでかなり強いです。ただ単にうっかりだといいんですが、理解できてなかったりすると困ります。バレエ団は、やっぱりアンサンブルは揃ってないと、価値は生まれないと思います。発表会ではないので。揃っていて、なおかつ綺麗で、それでうまくいけば、全員がその感情まで出せるようになれたらいいなっていうのを、私がこの間ですごく反省をしました。
素晴らしい舞台でしたが。
越智先生: 揃って終わっちゃうよりは、せっかく白鳥たちっていう役をもらっているから、難しいけど、みんなが揃いながら、そのなりきれる余裕があったら、もっとよかったのかなって思っています。
揃えるのは、完全に音楽に合わせてですか。それとも人の動きを見ながら自分も合わすのですか。
越智先生: 列とかは、場所とかは、前の人に合わせるところありますが、基本的に動きは全部音で合わせると私は思っています。
そうすると、ものすごく細かく音を聴いているんですね。
越智先生:
そうですね。この音で、この音で、このハープの音で、とか。
特にオーケストラは、本番によってハープの長さも違うし、だから数を数えてもしょうがないんですよ。音に合わせた方が、みんなが理解できるのが早いです。
自分もさんざんアンサンブルもやって、ソリストもやってきたので、先生の伝え方が、微妙にわかってない人たちがいるように思える時もあったんですよ。だから、そういうことには気を付けるようにしてます。
指導スタイル
スタジオで生徒さんに指導されるときは厳しいと伺いましたが。
越智先生: 「怖い。」です。絶対に。ゲストの先生方もうちの発表会に来られると、「ふじの、怖っ」って言われます。子どもたちにもめっちゃ怖いです。
でも、先程のお話では生徒さんとは友だちのような付き合い方をされているということでしたが。
越智先生:
でも、バレエをやる時には私も気持ちを切り替えるので、生徒たちも一緒に切り替えてくれる。そこでは厳しくしています。
私は「先生」と呼ばれてはいますけど、別に偉いわけではない。ただバレエを教える立場にいるだけだと思っています。
だから多分、子どもから見ると無理にご自身を作ってないから安心できるのですね。
越智先生: 多分(笑)。預けている親御さんもそうかもしれないですね。すごく怖いから、区とかに「なんか、あの人いじめてますよ、子ども。」みたいな感じで、いつか電話されるんじゃないかと思っています(笑)。実際すごく怒るし、生徒も平気でガンガン泣くし、でも泣いてもほっとくし。しかし帰る時は仲良く帰るといった感じです。
普通、そこまでやると辞めてしまう。
越智先生: そうなんですよね。でも辞めないんです。
本気でお付き合いされているからですね。
越智先生:
私もレッスンのときはその子しか見ていないし、本人も一生懸命だから、どうしても厳しくなっちゃうんです。すると結構落ち込んで帰っていくこともあります。最後に「また来週頑張ろうぜ」なんて声をかけても、さすがに今日は落ち込んでるなって思う時もあります。
でも、次の日になるともう元気にニコニコして来てくれるんですよね。それを見ると「すごいな」って思います。
で、自信満々に私の服をつかんで「練習してきた!」なんて言うんですけど、実際に見てみると「全然できてないじゃん!」ってまた怒る(笑)。でもそれの繰り返しなんです。
「考える」ということ
光景が目に浮かぶようです。
越智先生:
しかし、スタジオでのたった1時間のレッスンだけで、発表会の踊りを全部覚えて踊るなんて無理なんです。かといって、生徒たちは他の習い事もあるし、学校もあるし、やらなきゃいけないことがたくさんある。だから「レッスンを増やす」と言いたいわけではないんです。
飛んだり跳ねたり、大きな動きを家でする必要はありません。でも、家で考えてほしい。思い出してほしい。今日こう言われた、ここが違ったからこう直すように言われたなと。そういうことをちゃんと振り返ってほしいんです。
例えば、家でもできることはたくさんあります。バレエの手の形、腰の手の位置、「こうなっちゃダメ」と注意されたことを思い出して直すこと。それを家で繰り返してほしい。実際に、どのクラスのお姉さんたちも、毎週毎週どんどん良くなっているのは、家でやってきてくれているからなんです。ちゃんと考えて取り組んでくれているんですよ。
ストレッチとかやっているんじゃなくて?
越智先生:
もちろんストレッチもやっている子はやっていると思いますけど、やっぱり振り付けです。子どもからすると3曲、4曲の振りを覚えるのはかなり大変なことだと思います。
だから、CDを全部焼き回し、「家で聞いてね」って渡しています。
「DVDに入れても、テレビでもこのCDは聞けるからさ」って言って渡して、家で1回、2回と聞いてから来てねと言っています。
アピールポイントと指導方針
教室のアピールポイントは?
越智先生:
安い。あとは振替可能、制限なし。5年後でもいいよって感じです(笑)。
あとは、お月謝もいつもってきてもいいよって言っています。うち、手渡しなんですよ、未だに。
あとは、生徒が休んでもなんとも思わない。バレエ教室って敷居が高いみたいに思われているんですけど、そういうのは全然なくて、「来られる時に来ればいいじゃん」といった感じです。
でも基本毎回来ます。みんな。
また、どうしても振り替えられないって子は、今月のお月謝は1回分でいいですよといっています。
多分、私1人でやっているからできることなんですよね。
これが他にアシスタントがいたらできないので。
でも他の先生は、先程お話したようにやっぱり入れたくないんですよ。自分の生徒は自分で見てあげたい。
指導方針はありますか。
越智先生:
挨拶ですね。敬語とかは使えなくていいから。とりあえず「おはよう」でも「こんにちは」でも良いです。
「さよなら」でも「バイバイ」でもなんでもいいから、やっぱり来た時と帰る時は大きな声で挨拶しようねと言っています。先生だからって「ありがとうございました」とか敬語で言えなくても「ありがとう」でちっちゃい子はいいと思うんですよ。
私は言うだけいいと思っています。無言で帰られるのは困ります。
ちっちゃい子どもの「攻略?」
これから、何かをされたいといったお考えはありますか?
越智先生: 今と変わらずに、いろんな子と会えたらいいなと思っています。
でも、子ども嫌いって仰っていましたが。
越智先生:
もう、もうしょうがない、やるしかないから。
例えばママから離れられないちっちゃい子がいたりします。
そうするとね、ママとパパが残って居ちゃうんですよ。だから、思い切ってママとパパに、1回帰ってくださいと言います。そうすると、意外と普通に1人になったらきちんとできるんです。
また、ずっと椅子に座ってみんなのこと見ているだけで、やらない子もいたんですね。
そういうときは、その子を「攻略」してレッスンをやらせてみたくなります。
それがね、やるようになるとね、ちょっと達成感があります。
でもね、なんでその子がレッスンをやりはじめたかがわかんないから「攻略」はできてないんですけど。
いや、それって、めちゃくちゃ子ども好きなのでは? 好きじゃないとそんな関心が湧かないのでは。
越智先生:
いや、でも、なんかやらないといけないし、せっかくレオタードもバレエシューズも格好はバッチリ買ってもらっているので、何かやらせないと、ママが今日お迎え来た時に何
て言えばいいんだろうと。「ずっと見ていましたよ」とは言いづらいし。
「バレエを習わせるために連れて来ているのに」と思われてもねえ。
でも、3歳から5歳の子どもからすると1時間ってかなり長いんですよ。だから、少しでも、半分の30分間だけでもバレエはできなくてもいいから、みんなに一緒に混ざっていられるだけで、すごい褒めたりしています。
「強い心」にこめた思い
発表会プログラムの越智先生のご挨拶文を読ませていただくと、「強さ」という言葉が何回も出て来ます。例えば、生徒さんからの質問で「どうしたら先生みたいに強くなれるんですか?」とか「強い心を持って、強い女性に、そして優しい女性に育ってほしい。」「自分に負けない強い心を持ってほしい。」などです。
それはどのような想いをこめられているのですか?
越智先生:
バレエ団でも今まで、やっぱりいろんなことがありました。
自分にあんまり良い役がつかなかったり、良い役がついたり、また責任が重い役がついたり。そんな中で、他人の言葉に左右されないようにしたり、人の目を気にしすぎたりしないようにしたりするには、自分の心が強くないといけません。あとは、自分で努力をすること。それは1番自分に厳しくないと、できないことじゃないですか。
結局、自分がやるかやらないかは、自分で決めることだから。そういう気持ちの強さって、もちろんバレエだけじゃないと思うんですけど、バレエでは特に気持ちが強くないといけないと思います。人に対して強くということではなく。私の母も岡本佳津子先生も本当に女性としてすごく強い人です。
人には優しいけど、自分に芯があるようになるには、かなり自分に厳しくやっていかないとなれないと思うんです。
発表会でも難しい振りがでたとき「どうやってやったら、できるようになるのか」を自分で考えるのも、自分に厳しくないとできない。
そのように考えはじめたのはいつからですか?
越智先生:
バレエ学園に入った時だと思います。私以外の子がみんな、バービー人形みたいな子達ばっかりなんですよ。
足がスーパー長くて、胴がめっちゃ短くて、顔が超ちっちゃい子。
その中で、発表会では同じ作品を踊らされるんですよ。その時は漫画みたいですけど、鏡を見たくないと毎日泣いていました。でも、「これで生まれてきちゃったんだからしょうがないじゃん」という風になっていきました。
そういうところから、人と自分を比べない、自分ができることの長所を伸ばしていこうという風に考えられるよう心を強くしてきたんだと思います。
お月謝と稽古着とクラスの区切り
わかりました。 バレエ教室を始めるにあたって、最初に準備されたことはなんですか?
越智先生:
お月謝や入会金といった金額設定です。
バレエ団の先輩たちが自分たちでスタジオを持っているかたが多かったので、その人たちに聞きました。
それと、稽古着です。よそのスタジオで教えていたからわかるんですけど、稽古着なのにブリブリの衣装みたいなのを自由に着せてるところがたくさんあって、それが嫌でした。それで、先程お話ししたように、まず指定のレオタードをオーダーでシルビアさんにお願いしました。あとは、クラスを何歳から何歳までで区切るか。何クラスをやるかを決めました。
重要なのは時間割り
クラスの時間割りは?
越智先生:
それには迷いました。学校が何時に終わるのかわからなかったので、先輩たちに聞いて、「このぐらいの時間からやると子どもたちが来られるよと」教えていただきました。
逆に土日は、日曜日が早い方がそのあと、遊びにどうせ行けるから子どもはいっぱい来るといった時間設定です。
クラスの時間設定は大事だと思いますね。変に外してしまうと、子どもが来られなくなってしまいます。
クラスの時間と動かしたことありますか。
越智先生: 決めた時間割りで、集まりが悪かったときは動かします。
トータルプランを最初に考えておけば・・・
教室をやり始めて、はじめてわかったことはありますか?
越智先生: プランを決めて、「何歳から何歳までにはこれをできるようにしとかないとダメだったんだと」いう反省点はありました。いざ発表会となった時に、教えていなかったことがでてくると困るので、「この時にこれをやっとけば、これが次のクラスですんなりできて、で、また次のクラスだったらこっち」というようなトータルプランを最初に考えといた方がいいかもしれないです。 でも、教室を始めた時は、こなすだけで最初は精一杯だったんですよ。
おすすめの設備
教室を始めた後に、買い足したものはありますか?
越智先生:
水筒やタオルを置く台です。
この部屋、ほんとに何も置く場所がなくて。
あとは、買い足したものではないですが、音響設備にはこだわりました。
スタジオも新しく始める方だったら、デッキはなるべくいいものを買った方がいいかもしれません。
音響設備について教えてください。
越智先生: 私は絶対音はいいものでやりたかったので、この部屋を改装した時に付けました。スピーカーもちっちゃい部屋なのに4個つけています。もしスタジオを借りる場合は、ちゃんとしたデッキがあるところを借りた方がいいのかなと思います。持ち運びができるものだと飛んだり跳ねたりするとCDが飛んじゃうんですよ。
ほかにこだわった方が良いものはありますか?
越智先生:
レッスンバーです。高さが変えられるバーを用意した方がいいかもしれないです。
ステンレスの簡易的な鉄棒に見えるバーは止めた方が良いです。子どもがぶら下がって倒れたらいけないので。
やっぱり事故が1番怖いです。
体験レッスンの内容
体験レッスンはどのようなことをされていますか?
越智先生:
体験レッスンは、クラスに入ってもらい普通に教えはじめています。
「こういう風にやったらできるんだよ」っていうことを。体験レッスンの時に教えると、本人もできたりするじゃないですか。
そしたら本人も嬉しいし、私も褒めてあげるし。
そうすると、意外と自分にもできるかもって、ちょっと希望が持てるようになって入ってくれます。
ちっちゃいクラスだったら、ママから離れられ、真似ができたら褒めてあげたりしています。
体験レッスンに来た子どもはほとんど入られています?
越智先生: 多分他のよそのスタジオも受けた子が、戻ってきてくれたり、やっぱりここにしますって言ってくれたりするのは嬉しいですね。多分安いからでしょうけど。
すぐには投げ出せない教室運営
そんなことはないと思いますよ。では、これからバレエ教室を開かれる方へのアドバイスはありますか?
越智先生:
私の先輩や後輩でも、教室を始めたのに、すぐに辞めてしまった人が何人もいるんです。せっかく習い始めた生徒たちを残したまま。
「開校します」と言って生徒を集めても、すぐにやめてしまったら、その評判は一瞬で広がってしまいます。たとえば「バレエ団の先生が近所でスタジオを始めたから行ったのに、1か月で閉めちゃった」なんてことになると、その先生だけでなく、バレエ団そのものの評判にも影響してしまうんです。
自分ひとりのことなら「やりたくなくなったから、やめました」で済むかもしれません。でも、恩師の名前をプロフィールに載せている以上、その方にも影響があるかもしれません。だからこそ、本当にやりたいのか、続けられる気持ちがあるのかを、しっかり確かめてから始めないとと思います。
そして、実際に始めてみて「ちょっと大変だな」と思う時期が来ても、すぐに投げ出すのではなく、もう少し踏ん張ってみる。教室って、そんなに簡単に始めたり止めたりしていいものじゃないと思います。
昨日よりは今日、今日よりは明日
今、目標にされていることはありますか?
越智先生:
そうですね。今でもそうですけど、「バレエをもっと上手くなりたい」って、ずっと思うんですよ。もっとこうなったらいいのになって毎回思います。
でも、そういうのって、でもすごいことだと思いません?
はい、すごいです。
越智先生:
それぐらい。私は本当にバレエを踊ることが好きなんですね。なかなかそういう風に思える職業、ないんじゃないかな。私は本当にバレエしかわからないけど。
「ずっとずっと、もっともっとうまくなりたいなっ」っていう風に思っているし、子どもたちに対してもそういう気持ちで、「せめて昨日よりは今日、今日よりは明日」という感じで教えています。「先週できたことができなくなるなんておかしいよね。」という風に。
なんでバレエは、そういう目標を持たせるのですか。
越智先生:
わからないです。でも、やっぱり本番の楽しさが一番じゃないかな。ライトを浴びて、拍手をもらった時の「達成感」って、他ではなかなか味わえないですよね。
生徒たちも同じです。発表会の前は「終わったら辞める!」なんて言っていたのに、いざ終わってみると「またやりたい!」って言う子が多いんです。
また、私自身はプロとしてその達成感を得られるのは、お客さんのおかげだと思っています。だからこそ、「どうやったらもっと感動してもらえるかな」って考えています。これからもお客さんのために上手くなりたいし、踊り続けていきたいんです。
今日は本当長い時間ありがとうございました。
越智先生: こちらこそ。ありがとうございました。
Photo:鈴木 隆久(ふじスタジオ)
※本記事は2025年8月のインタビューをもとにして作成されています。
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