むかし、ある裕福な商人がいました。
商人には男の子が3人、女の子が3人の6人の子どもがいました。
娘たちはみなとてもきれいでしたが、なかでも末の娘はベル(美女)※と呼ばれるほどでした。
ベルはきれいなだけでなく、誰にでも親切で心やさしく、読書と音楽を愛する娘でした。
2人の姉の方は裕福さを鼻にかけ遊んでばかりで、自分より美人な妹を妬んでいたのでした。
あるとき突然、商人は財産を失い、町外れの別荘へ引っ越さなければならなくなりました。
商人と息子たちは畑を耕し、ベルは掃除や食事の支度などを引き受け働き始めましたが、2人の姉たちはただ哀れな境遇を嘆き、召使いのように働くベルを笑っていました。
1年ほどたったころ、商人の荷物を載せた船が港についたと知らせが届きます。
姉たちはすっかり舞い上がり、出掛ける支度をする父親に、ドレスや髪飾りなどを山ほどねだりました。
父親がベルに何か欲しい物は無いのかと尋ねると、ベルは何も言わないと姉たちにいじめられると思いバラを一輪欲しいと答えました。
商人が港に着くと、彼の荷物に対して裁判が起こされ、結局何も手にすることができずに帰らなければなりませんでした。
さらに家に帰る途中の森で道に迷ったうえ、ひどい吹雪にあい前に進めなくなってしまったところで、木々の間に灯りが見えました。
なんとか灯りの方向へ進んでいくと、大きな宮殿が現れました。
宮殿のなかに入って行くと、誰もいない広間に火が焚かれ、テーブルいっぱいのごちそうが用意されています。
待っても待っても誰も現れないので、我慢できずに料理を食べ、寝室のベッドで眠ってしまいました。
朝起きると綺麗な服と朝食が用意されていました。商人は、これはきっと仙女が自分を助けてくれたにちがいないと考え、大きな声でお礼を言うと出発することにしました。
馬を取りに行く途中、バラのトンネルをぬけていきました。ベルがバラを欲しがっていたことを思い出し、バラを一枝折ると、その瞬間大きな音とともに恐ろしい野獣が現れて言いました。
「命を救ってやったのに、大切なバラを盗もうとするなんて、恩知らずめ」
商人は「娘のためにバラを摘んだのであって、盗もうとしたのではありません」
「それなら、娘の1人を身代わりに連れてくるように」と野獣は言いました。
商人が必ず戻ってくると言うと、野獣はそこにある箱に何でも詰めて持って帰っていいと言いました。
商人は「どうせ死ぬのならせめて子どもたちが困らないように」とたくさんの金貨を詰めて馬にのせ、宮殿を出発しました。
商人が家にたどり着くと、ベルにバラの枝を渡しながら昨晩のことを子どもたちに話しました。
2人の姉は「おまえがバラを頼んだせいだ」とベルを責めます。
ベルは「私が身代わりに野獣のところへ行きます」と言いました。
3人の兄たちと商人は、口々にベルを止めましたが、ベルはあくまでも自分が宮殿に行くと言って聞きませんでした。
ベルと商人が宮殿へ着くと広間には豪華な料理が2人分用意されていました。食事が終わると、大きな音をたてて野獣が現れ、商人に明日の朝出て行くように言いました。
2人はベッドに入るとすぐ眠ってしまいました。ベルの夢の中に貴婦人が現れ、「あなたの良い行いは必ず報われるでしょう」と言いました。
翌日商人が宮殿を去ると、ベルは宮殿を見て歩き、その美しさに驚きました。さらにベルのために豪華な部屋が用意され、大きな本棚と楽譜や楽器が用意されていました。本棚の中には「あなたの願いは何でも叶えます」と書かれた本があり、父親のことを思い浮かべると、部屋にある大きな鏡に商人が無事に家にたどり着いた様子が映し出されました。
それから3か月の間、野獣は夕食の時だけ姿を見せ、ベルにやさしい言葉をかけるのでした。
いつしかベルは夕食の時間を楽しみに待つようになりました。
野獣に妻になって欲しいと言われたベルは正直に、結婚はできないがいつまでも友達としてそばにいると約束します。
ある日父親が病で倒れている姿が大きな鏡に映し出されました。ベルは父にもう一度だけ会いたいと野獣にお願いし、8日後には必ず戻ると言いました。
野獣は戻りたくなったら指輪をテーブルに置いて眠るように教えました。
ベルが家に着くと、商人はとても喜びました。
2人の姉たちも駆けつけて来ましたが、ふたりとも不幸な結婚をしていたため、美しいドレスを着た幸せそうなベルを見てひどく悔しがりました。
姉たちはベルをなんとか8日以上家にとどめ、野獣を怒らせようと計画します。
姉たちにとても優しくされ、引き留められたベルはとても喜び、宮殿に帰るのを遅らせることにしました。
10日目の夜、夢の中で野獣が死にそうになっているのを見たベルは自分の行動を後悔し、指輪をテーブルに置きました。
翌朝宮殿に戻ったベルは野獣を待ちましたが、夕食の時間になっても野獣は姿を現しません。
心配したベルは夢で見た場所を探すと野獣が倒れています。
「あなたを失った悲しみで死のうと思ったのです」
「いいえ、愛しい野獣さん、あなたは私の夫になるのです」ベルがそう言うと、宮殿が光り輝き、花火が上がり、お祭りのような騒ぎになりました。
そして、野獣がいた場所に綺麗な王子が現れ、呪いを解いてくれたお礼を言いました。
2人が広間へ戻ると、商人と家族全員が揃っていました。
広間には以前夢に現れた貴婦人がいて、自分は仙女の女王で、ベルは王妃になる資格があると言いました。2人の姉には嫉妬深さを改めるまで妹を見守るようにと石像に変えてしまいました。
仙女が全員を王子の王国へ移動させると、王国の人々は喜んで家族を迎え入れ、2人は結婚して末永く幸せに暮らしました。
※フランス語で「美女・美しい女性」という意味の愛称。